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名和晃平 生成する表皮

十和田市現代美術館

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名和晃平《Biomatrix (W)》2022年

ミクストメディア

撮影:小山田邦哉

青森県の十和田市現代美術館は、アートを通して新しい体験を提供する開かれた施設として2008年に開館した。美術館の設計に携わったのは、金沢21世紀美術館やニューヨークのニューミュージアムなどを設計したSANAAの西沢立衛氏だ。

美術館は広場と建物が交互に並んでいる官庁街通りに位置しており、その特徴的な配置から着想を得て設計された。建物は「アートのための家」として個々の展示室を独立させ、敷地内に分散して配置、それぞれをガラスの廊下でつなげているという独特のスタイルだ。

国際的なアーティストたちの大規模な常設作品がアート好きから注目を集めている十和田市現代美術館で、京都を拠点として活動している彫刻家・名和晃平氏の個展「生成する表皮がスタートした。

名和晃平氏は、セル(細胞・粒)で世界を認識するという独自の概念をベースにガラスや液体などの様々な素材や技法を用いることで、彫刻の新たなあり方を一貫して追求している。

今回の個展では、大学院時代のドローイングシリーズ「Esquisse」、本展のために制作された最新作《Biomatrix (W)》、「White Code」シリーズの新作を展示。素材を探求することで彫刻の概念を拡張してきた活動の変遷をそれぞれの作品から読み解くことができる。

 

名和晃平氏の作品解説をプレス内覧会で聞くことができた。

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名和晃平《PixCell-Deer♯52》2018年

ミクストメディア

217.3 × 189.6 × 150 cm

撮影:小山田邦哉

名和氏の作品解説の前に、十和田市現代美術館の鷲田めるろ館長が今回の名和晃平氏の個展開催の経緯を語った。

「2021年から3年間の契約であるコレクターの方から名和晃平氏の作品《PixCell-Deer♯52》を借りて常設展示をしています。この契約期間中に名和さんの個展をしたいと考えていました。違うタイプの作品を組み合わせて展示することにより、名和さんの世界観、関心、取り組んでいることがより伝わるようになればと思い個展を企画しました」

 

 

展覧会のタイトル「生成する表皮」は、名和晃平氏の作品に通底する制作概念を表している。常設展示作品《PixCell-Deer♯52》は視点の移動とともに表面が映像的に姿を変える「PixCell」シリーズ、その隣の展示室にはシリコーンオイルからグリッド状に泡が生成されては消えていく《Biomatrix (W)》、大学院生時代に制作されたドローイングシリーズ「Esquisse」、規則正しくドットが並んでいる「White Code」で構成されている。

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名和晃平《Biomatrix (W)》2022年

ミクストメディア

撮影:小山田邦哉

「西沢立衛さんが設計したこの美術館の空間と作品をどのように重ねられるかをまず最初に考えました。常設展示作品《PixCell-Deer♯52》があり、そこからいくつかの部屋を加えていくという構成で考えました。この美術館は、屋外展示も含めて、全体的にビビッドで視覚的に飛び込んでくる作品が多いと感じたので、僕の作品は静かでじっくり作品と対峙して開かれていくような作品にできないかなと考え、《Biomatrix (W)》が完成しました」と名和氏は語った。

 

 

《Biomatrix (W)》のWはホワイトの意味で、いくつかの顔料の中から、この場所の光の具合などを見て、真珠のような光沢感のあるホワイトパール色に決めたのだという。20年前から様々な素材で泡の出る作品を作ってきた名和氏は、今まで発表してきた泡の作品を思い返して、今回はシリコーンオイルを使って均一の泡が湧いて出てくる作品に仕上げた。床に座って泡を見つめていると、泡が誕生して消える音が微かに聞こえてくる。

 

「生命が生まれる場所では、皮膚とか細胞が代謝して更新され続けています。生命がどのように維持されているか、その源に出会うような体験ができないかなということで、このような表現になり、《Biomatrix (W)》というタイトルを付けました。私たちの体も細胞でできていて、皮膚の新陳代謝が繰り返され、一つ一つの細胞がリズムを持ってエネルギーを発して保ち続けている。そのエネルギーの代謝で細胞が呼吸をしている状態を生命と呼ぶならば、この呼吸がいつ始まって、いつ終わるのか、というのが僕の中では興味のあるテーマです。それを彫刻の中でどうやって表現できるのか、物質性を感覚として持続させながら表現に置き換えていくことはできるのだろうかと考え作品を作り続けています」

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名和晃平《Untitled》展示風景 2000年

水彩、鉛筆、紙

撮影:小山田邦哉

「Esquisse」は、22年前の大学院生時代に実家の畳の上で描いていたドローイング。鉛筆や習字の朱液などを用いて、画用紙やコピー紙などに描いていた作品。実家の整理をしていた際に200枚以上の作品を発見して、26枚をセレクトして展示している。

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名和晃平《White Code#7》2022年

水性アクリル、キャンバス

撮影:小山田邦哉   

「White Code」は、2021年から制作している新作で美術館での初展示となる。

糊引きしていない麻のキャンバス上に粘度を調整した白色の絵具を点滴のように落とす手法で描いた作品。

 

「点線を描いていくだけですが、それを何度も何度も繰り返すことで点と点が結び付き合って、符合や記号のようになったり、音の記憶のように見えてきたりします。アルゴリズムや何かの情報を刻印しようとしているわけではないのに、そこから有機的なリズムのようなものを感じて、観察しながら制作しました」

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名和晃平《PixCell-Deer♯52》

PixCellとは、Pixel(画素)とCell(細胞)を掛け合わせた造語である。PixCellシリーズは2000年頃から作り始めた作品。この作品は、ヒトゲノム計画、羊のドリーの誕生など、DNAを全て読み解く研究が本格的になったことが影響している。生命情報をどのように捉えるのかということに人類が向き合わされた時代だったと名和氏は言う。

 

「宇宙の空間の中に生命がどうやって生まれて、どこにいくのか。本当に偶然に生まれただけなのか。宇宙空間に有機的な物質が生まれて呼吸を始めるという奇跡が起きて、その呼吸が一度も止まらなかったことで、植物や微生物、動物を含めた生命圏、生態系が続いている。この呼吸をどうしたら止めなくて良いかが社会全体の課題になっています。

情報化と生命というものを時代とともに彫刻でどのように表現したら良いかということを考えて、彫刻で表現してチャレンジしたのがこのシリーズです」

 

人間の認識を格段に広げたのはレンズであり、レンズの厚みによって宇宙、微生物を認識することができたのだと名和氏は語った。

この作品は、鹿の剥製の全体を大小の球体で覆うことで、表皮を個々のセルに分割して様々なレンズを通してオブジェクトを鑑賞できる状態にしている。

 

作品全てを彫刻と呼ぶことについて名和氏は、「表現の出発点が、彫刻の歴史を学ぶことだったので、その名残りのようなものだと思っています」と語った。

 

彫刻の表現を更新し続けている名和氏の作品を十和田市現代美術館で体感してみることをお勧めする。

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《Dot Array – Black #239》2022年
UVプリント、紙、アクリル、木製パネル 56 × 100 cm
提供:Gallery Nomart
撮影:加藤成文

今秋には、十和田市現代美術館から徒歩3分の十和田市のまちなかに(仮称)地域交流センターが開館する。10月1日(土)~11月20日(日)に名和晃平氏の作品「Array - Black」シリーズの《Dot》や《Line》の平面作品を展示予定とのこと。

 

 

 

 

名和晃平個展「生成する表皮」

十和田市現代美術館 2022年11月20日(日)まで

地域交流センター  2022年10月1日~11月20日(日)※予定

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名和晃平

彫刻家 / Sandwich Inc.代表 / 京都芸術大学教授。1975年生まれ。京都を拠点に活動。

2003年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士課程彫刻専攻修了。

セル(細胞・粒)という概念を機軸として、彫刻の定義を柔軟に解釈し、鑑賞者に素材の物性がひらかれてくるような知覚体験を生み出してきた。近年では、アートパビリオン「洸庭」など、建築のプロジェクトも手がける。2015年以降、ベルギーの振付家/ダンサーのダミアン・ジャレとの協働によるパフォーマンス作品「VESSEL」を国内外で公演中。2018年にフランス・ルーヴル美術館 ピラミッド内にて彫刻作品《Throne》を特別展示。

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十和田市現代美術館:

開館時間:9:00-17:00(最終入館16:30)

休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日)、年末年始

 

青森県十和田市西二番町10-9

TEL: 0176-20-1127

https://towadaartcenter.com/

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